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権威主義の罠と反権威主義の罠

 尚志会を立ち上げた理由の一つが権威主義からの決別でした。

 私(石井)の武道経歴は、柔道を初めとして少林寺拳法、剣道、居合道、空手、合気道、大東流合気柔術、そして一般には公開されていない警察逮捕術です。その武道経歴の中で実感していたのは “ 権威と実力は無関係 ” だと言うことでした。初段でも強い人は存在するし、高段者でも大したことの無い人が居ます。有名な流派で長年修行された人でも武道経験の無い人に負けることもある。何流とか何段とか所謂権威は実力と無関係で、つまるところ、強いか弱いかは一個人の才能と実力に尽きる訳です。 

 しかし、悲しいことに武道界では権威主義がまかり通っていて、私が入会した大東流も当時この権威主義が蔓延していました。それで嫌気がさして尚志会を立ち上げたようなものなのです。

 

 権威主義の罠とは、権威に頼ることで研鑽に努める事を忘れ自己の向上を果たせなくなることです。往々にして実力の無い者程、権威に縋っているものです。

 また、この権威主義は稽古をする上で邪魔になります。「これが我が流派の基本で、修得すれば達人に成れる。」等と言って、権威に縋る無能者の言う事を信じ、貴重な時間を費やして稽古を続けても結局得るものは何もないでしょう。熱心に稽古を続けていてステージを上げる切り口が分からずスランプに陥った時に、つい権威に縋り向上することを諦めてしまったりもします。余程注意しなければ、この罠に嵌まってしまいます。

 

 尚志会・夢塾では、権威主義の罠に嵌まらない様に反権威主義のスタンスで稽古をしてきました。流派に固着することなく、実戦重視の技を稽古してきたのです。

 天津先生に良くして頂いたのも、こうしたところを気に入ってもらえたからだと思っています。特別に指導、技を映像にして残して頂きました。

 

 しかし、天津先生に折角指導して頂いたのに長年ほったらかしにしていたのが事実なんです。反権威主義のスタンスを取っていた為、「私だけが久先生から武田流の大東流を習った」と言われると天津先生から教わった技を稽古する気になれなかったのです。そして、これが反権威主義の罠だったのです。

 恥ずかしながら、天津先生が入院されたのが切っ掛けで漸くこの事に気付いた次第です。天津先生が入院されてから慌てて天津先生に教わった技の稽古を再開したのですが、稽古の再会に関しては天津先生の映像と久先生が作成した総伝が手元にあるので容易いことでした。そして、天津伝の稽古を再開して間もなく、久先生の総伝と天津先生の映像が途方もなく貴重な歴史的資料だとやっと分かったのです。長らく大東流合気柔術唯一の免許皆伝者、その直伝、と言う権威にばかり気を取られて、歴史的資料であることに気付けなかったのです。反権威主義にも罠があったのです。

 

 武術は、幾つかの技を覚えれば達人になれると言うものではありません。各流派とも、その流派の趣旨、本旨たる真理を理解し体得することが達人への道だと思います。大東流合気柔術も然り。化学を修得しようとしているのに心理学を勉強しても化学は修得できません。同様に、大東流合気柔術と名乗る別物を幾ら稽古しても大東流合気柔術の真髄を理解し体得することは出来ません。事実が証明する本物の資料を基に稽古するからこそ大東流合気柔術の真髄に至るのです。

 

 大東流合気柔術が何であるか分かりかけた今、貴重な資料を残して下さった久琢磨先生と天津裕先生に対し感謝の気持ちでいっぱいです。

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